企画展 2F 新千年紀へのメッセージ ─イスラエル美術の現在

2001.1.20 [土] - 3.20 [火]

1948年に建国した中東の国イスラエル。この地は洋の東西をつなぐ場所に位置し、古くから異なる民族や宗教の複雑な往来がありました。そのため、比較的新しい国家であるにもかかわらず、豊かな歴史と文化が蓄積されています。その一方、パレスチナ問題、近隣のアラブ諸国との不和、ユダヤの極右思想の台頭など、政治、宗教の面で解決の糸口が見つけにくい多くの課題を依然として抱えていることも事実です。
1970年代に入ると、こうした社会状況に積極的に関わりながら活動をするイスラエルの美術家が次々と登場し、美術において大きな変革がなされました。当時のイスラエルの美術家は、思考を重視し制度を問う概念芸術と呼ばれる手法に影響を受け、政治、社会、倫理、芸術の関係を改めて考える活動を展開します。彼らは従来の「絵画」や「彫刻」というジャンルを解体し、さらに文化や社会の因習的制度を形づくっていた境界に次々と揺さぶりをかけました。このような制度に関連した境界の問題は、イスラエルの国境をめぐる近隣諸国との論争とも絡み合い、熱心に議論されます。
また当時の美術活動は、視覚的イメージや物質的素材より、議論を投げかけ思考することを重視する傾向を生みました。それはある時は見える世界に疑いを持つこの地の偶像否定の伝統と結びつき、ある時は物質的な豊かさに頼らず倹約主義に徹するキブツ(財産を共有するイスラエルの共同体)の習慣に結びつきながら、イスラエルに独特な美術の流れをもたらしました。こういった1970年代の転換期を経て、イスラエルの美術は1980年代以降きわめてユニークな方向性を獲得していきます。
とりわけ1990年代になり、イスラエルの美術は国際的にいっそう大きな注目を集めるようになりました。この10年の間、冷戦構造の崩壊とそれに伴う民族主義による地域紛争、さらにはコンピューターの普及による通信技術の飛躍的進歩などによって、社会の枠組みは全世界的に大きく変貌してきました。同時に政治、経済、宗教、文化が複雑に絡み合った様々な問題が世界各地で新たに浮上しています。習慣の異なる人間は果たして共存できるのか。集団意識が希薄になる状況で、我々はどこに帰属意識を求めるべきなのか。グローバルな標準に全てが吸収されていく中で、文化の独自性や少数派の固有性は如何に保たれるのか。このような今日的問題に直面している我々を、複雑な社会背景をもとに生み出されるイスラエルの芸術は、より広い視野の中へと導いてくれます。
この展覧会では1970年代の美術の転換期以降の状況を念頭に置きながら、現在国際的に活躍しているイスラエルの芸術家10人を紹介します。立体作品や平面作品に加え、映像作品やドキュメンタリー映画なども含め、今日のイスラエルの文化と芸術の状況を多角的に探っていきます。さらにこうしたイスラエルの美術の現況を通して、変貌する現代社会における文化・芸術の可能性を我々自身の視点から考えていきます。

会期

2001.1.20 [土] - 3.20 [火]

休館日

月曜日((2月12日は開館)および2月13日(火)

観覧料

一般570円(470円)、大高生470円(360円)
※( )内は20名以上の団体料金。
※中学生以下と65歳以上、障害者手帳をお持ちの方(付き添い1名を含む)はいずれも無料です。展覧会入場時に確認いたしますので
・65歳以上の方は、年齢を確認できるもの(運転免許証、健康保険証等)をご持参ください。
・障害者手帳をお持ちの方は、手帳をご持参ください。

ガイ・バル=アモッツ《ゴールド》2000年

ル・シャニ《テント》2000年

シガリット・ランダウ《押しつぶされた家》1994年

ガブリエル・クラスメル《無題》1997年